以前から各所で書いているように、私は IMFMSynth の開発に際してフォーラムに積極的に登場してユーザーの意見を取り入れる方針を取っております。そこで気づいたことがありまして、書く次第です。
オーディオ業界における AI ポン出し問題
どうも業界で、所謂「AIポン出し」低品質プロダクトの大量生産と、それによるフォーラムの疲弊が問題になっているらしいのです。話題が話題なのでどことは言いませんが、そうした低品質プロダクトのリリースをフォーラムに上げて喧嘩が発生するというよう事象も、一箇所と言わず複数個所で確認しております。 FM・Wavetableシンセサイザ IMFMSynth をプラグイン開発している私に対してもそうした観点で疑問を持たれる方がいらっしゃるでしょうし、ニュースに出すまででもないですが、私の立場や考え方を述べておこうと思った次第です。ちょっと、私の場合は持っている発達障害 ADHD/ASD が関係して事情が複雑です。
正直私が AI をどう考えているか
一部には AI による学習や製作そのものを盗用と考えている人もいるようですが、私は場合によると考えています。 というのも、漫画家やアニメの作画のお仕事をされている方々も、日本のアニメや漫画の伝統的な、或いはトレンドの画風を学んで、それを自分なりに消化して描いているわけです。それが「パクリ」をしない限りは当然に良い行為として社会で消費されている。 AI による学習にしても同じことです。学習して、成果にする。それがパクリであれば怒られる。
そこで、AI 創作・製作に創意工夫があるのか、という論点に至ります。 これは、使う人次第だと思います。
少しだけ、ソフトウェアの世界の言葉を使って説明しましょう。
作りたいものが何なのか?助けたいものが何なのか?何を楽にしたいのか? そういうことを言語化する。これが「要求」です。私の場合は、
「FM は複雑でプリセットに頼るしかなかった。当時の技術では使いこなせる最適な UI を作れなかった。それを今の Web 技術とデザインを組み合わせれば解決出来るのではないか。初心者でも自分で音作りが出来るFMシンセが作れるのではないか。」
でした。 そこでどういう仕様のプロダクトがあれば要求を満たせるのか。これが「要件」です。私の場合は、
「DX7 プリセットとの互換性を持つこと。Wavetable などのモダンな要素を取り入れること。パッチベースという伝統的かつ直感的な UI で要求を実現すること。」
でした。 本質はプロダクトを作る人間として要求と要件に責任を持てているかどうかです。 これは断じて無意味ではないですし、何ならそもそも人間にとって最もプリミティブな創作行為の本質でしょう。
ここで、例えば私が敢えて要求も要件も考えずに IMFMSynth を無責任に AI ポン出しで作ったらどうなったか、お見せしましょう。

それに対して次が現バージョンの IMFMSynth の UI です。

複雑性が増しつつもデザインに統一性があると思います。 プロダクトを作る人間は言葉ではなくプロダクトで示すものだと思いますから、これ以上は何も言いません。
私が抱えている発達障害 ADHD/ASD
私は ADHD/ASD の診断が出ていまして、二次障害の鬱と睡眠障害も重く、精神障害者保険福祉手帳の2級が交付されております。 日本人以外のユーザーがかなり多いので解説しておきましょう。障害者手帳の精神枠には段階として1級・2級・3級があります。 役所のページで抽象的な基準が読めるでしょうから私の認識を述べておくと、
- 3級の方はしばしば所謂ギリ健常者として扱われて、持っている障害と戦って苦労して発揮しているその社会性を知られず評価されず当然のものとして扱われる苦労の中生きています。
- 2級の方は障害の重さからして大半は通常の正社員としての8時間労働が出来ません。3級とは異なる社会的な苦痛の中生きています。
- 私も、8時間労働をしていましたがどうしても耐えられず、合理的配慮として現在6時間労働をしています。
- 1級の方は基本的に要介護で、大半が病棟か家族か施設の介護の中暮らされています。
ただし誠実さのために言っておくとこれは私の所感に過ぎませんし、私は患者に過ぎず医師でも公務員でもない立場の一つの意見であることは考慮して下さい。
さて、具体的に社会生活上、また開発者として問題になる部分を言いますと、 とにかく異常に不注意が多いのです。数学、特にフーリエ解析や調和解析に関する学術的研究の背景を持つ人間であり最適化が得意である一方で、それと不釣り合いに基本的な不注意が凄まじいのです。 AI が出力してターミナルに流しているコードに対して
「ん、そこ!DSPで毎回指数関数を呼び出さなくても、離散なのだから Voice が鳴った時点で減衰時間から定数を計算してキャッシュしておけば、それを毎回掛け算するだけで行けるよね?」
「ん、ここもおかしい!隣接行列は CPU のレジスタサイズに合わせた型を用いてビット演算で計算すべき。」
と指摘を行うくらいの知識と経験はある。 そもそも私は三角関数・対数関数・指数関数・ベキ関数を自前実装するところからやるような人間です。 それでいて自分をストイックだと思っていない、或いはストイックと言う資格が自分にはないと思っているくらいには、客観的に見ればこだわりの強い人間なのでしょう。
その一方で、変数の初期化忘れを多くやらかしたり、或いは書いているのにその通りに動かないと思ったらそもそもその関数を呼び出していなかったり、或いはデバッグの早い段階で問題の原因を決めつけてしまって本質に気づけず時間を無駄にしたり、とにかくそうした問題とその解決のために時間と思考力を浪費する人間なのです。これが創作・製作の枷となっていました。
一方で ADHD/ASD 特有の過集中や衝動性やこだわりのおかげで IMFMSynth というプロダクトにコミットできる良い側面もあります。
こうした苦しみや歯がゆさを埋めて私を楽にするだけでなく、社会人としての責任を持たせてくれた補助が昨今の AI でした。
金儲けのためにプロダクトを作っているのではないのです。自己表現として社会人としてプロダクトを作っているのです。
私とAI
私は、私とユーザーの皆さんの夢を言葉にして形にして叶えるために、また私の自己実現のために、手段として AI を用います。一方で、だからこそ本当に大事な責任を喜んで受け入れます。 これは、今まで述べてきた背景と私のプロダクトへの愛があっての言葉です。 決して軽くないものと考えていただければ、納得いただけるでしょうか。